会長挨拶
このたび第58回日本臨床分子医学会の会長を拝命し、大変光栄に存じております。
日本臨床分子医学会は、1964年に設立された臨床代謝学会を源流としております。当時、臓器別に分化しつつあった医学を「代謝」というキーワードで横断的に鳥瞰し、基礎医学と臨床医学を橋渡しするディスカッションが同学会を通じておこなわれていた、ときいております。1999年に、横断的で先進的な医学研究を代表するタームを「代謝」から「分子」へと昇華させ、本学会となり今日にいたっております。
本邦の基礎医学は、何人ものノーベル賞学者の研究に代表されるように、常に世界のトップを走っております。一方、その成果を臨床現場へとトランスレーションする過程が欧米先進国に比べて馬力不足であるといわれて久しくなります。その打破のために本邦のフィジシャン・サイエンティストは何をすべきか、考えなければなりません。
日々の診療業務におわれながらそれぞれの専門分野の研究をおこなうフィジシャン・サイエンティストは自分の領域のみに視野をしぼりがちですが、その結果としてそれぞれの分野に潜在するドグマに支配されてしまい、生命体にみられる複雑な分子相互機構を2次元的にしか観察できない、そのためにせっかくの基礎研究成果の臨床応用にブレーキがかかってしまうケースがしばしばあります。そのようなピットフォールを瓦解すべく、異分野の研究者の知識交流、さらに産業界との意見交換の場として、本学術集会は重要な役割を演じていると認識しております。
第58回の日本臨床分子医学会学術集会は、「敢為邁往-臨床分子医学を究めるために」をテーマとさせていただきました。分子研究の進歩に貢献するためには我々ひとりひとり前進の努力を継続することが必須ですが、何が目標なのかを失うと「猪突猛進」になりがちです。臨床分子医学研究を実践するにあたっては横断的ディスカッションを重ねたうえで広い視野をもち、どうしたら臨床現場に役に立つのか、それを前提にして研究を前進させることが肝要であると考えます。その場のひとつとして第58回日本臨床分子医学会がお役にたちますことを強く願います。
皆様のご参加ならびにアクティブなディスカッションを期待いたしております。
2022年11月
第58回 日本臨床分子医学会学術集会
会長 渥美 達也
(国立大学法人北海道大学 北海道大学病院長)